2007年以前のインプラント上部構造には、金属にセラミックを焼き付けたメタルセラミック冠が使われていました。 メタルセラミック冠をインプラントアバットメント(土台)に接着する場合、冠内面の金属にアルミナサンドブラストという酸化アルミニウムを50ミクロンの大きさの砂状にしたものを強い空気圧で吹き付け、冠内面をザラザラにして表面積を増やすことで接着効果を向上させます。その後に合成樹脂系のレジン接着剤を使用し、強力に接着するのです。
メタルセラミック冠に焼き付けられるセラミックの強さは、曲げ強度で70〜120MPa(メガパスカル)ですが、奥歯にかかる咬合力は1平方センチメートル当たり最大100キログラム以上になるため、メタルセラミック冠にクラック(ひび)が入ったり、チッピングと言って角が欠けたり、時には大きく割れたり金属から剥がれたりするトラブルがありました。
当時はこのトラブルを解消する技術を追求することにいつも頭を使っていましたが、その後400MPaのe−max(イーマックス)という高強度ガラスセラミックが出たことで、かなりトラブルは少なくなってきました。e−maxの内面は、フッ酸という強酸を内面に数分塗布すればザラザラになり、その表面に2液性のシラン液を塗布するシランカップリングという処理を行うことで強力に接着力を向上させることができます。
そんな環境下において、工業会で20年以上研究されてきたジルコニアという材料が、6年ほど前から歯科材料として歯科医療界に出てきました。 ジルコニアはジルコニウムという金属の酸化物である二酸化ジルコニウムで、白色をしたセラミック材料として使われ始めました。2000度以上の耐熱性を持ち、曲げ強度は1200〜1300MPaで対摩耗性も高く、現在世界最強のセラミックであるジルコニアの出現によって、クラックや破折などのトラブルから解放されたのです。
しかし、ジルコニア冠の内面はフッ酸を寄せ付けず、耐摩耗性も強いので50ミクロンのサンドブラストではザラザラにならない性質があります。そのためにジルコニアに強力な接着力を持たせようと試行錯誤が繰り返され、現在は150ミクロンのアルミナサンドブラストを強く当てることで、その表面をザラザラにし、Zプライマーという表面処理剤を塗布して強く接着させるようにしています。さらに最近では、シリカをジルコニア内面にうすく塗布し焼き付けた状態に、フッ酸処理でザラザラにしてシラン処理を行う方法も開発されました。
■2014/01/30